スペイン生活のお楽しみの一つにバール巡りがあります。残念ながら地域によってバル文化の浸透度が違い、タパスという一口サイズのおつまみが無料でついてきたり、タパスは完全に別料金だったり、オリーブの実とナッツだけは無料だったりと、場所によって様々です。でも、社交性抜群で人生を楽しむことにかけては右に出る者ナシのスペイン人にとって、バールの存在はスペインの食文化を支える柱の一つだと言えるでしょう。

 ところで、このバール。アルファベットではBARと 綴ってはいますが、実際には、「立ち食いオッケーの飲み屋」兼「軽食喫茶」というところ。飲み屋といっても日本でいうところのBARとは異なり、多くの店は遅くとも12時頃にはラストオーダーです。それもその筈、BARの朝は早いのです。

 オーダーの時間割はこうなります。

①目覚めの朝一コーヒー、
②アルムエルソ(朝10時頃からの遅めの朝食)のボカディージョ
③昼食(通常、午後2時頃から)
④食後のひと仕事を終えたあとのメリエンダ(ごく軽い食べ物が中心)
⑤夕食前のアペリティボ
⑥夕食(夜10時頃からの遅めの夕食)
⑦食後の一杯

 客層も、乳母車を引いた買い物途中の女性か ら、ビールを片手にサッカーの生中継を食いつくように見入る男性。いつもの仲間とテーブル片隅を陣取って何時間もゲームをする老人グループ。パターンは様々で、最近では、アルムエルソやメリエンダを抜き夕食を早めに食べる人も多くなってはいるものの、ス ペイン人の生活にベッタリと付着した存在なのです。

 こういう具合なので、”バールがオフィス”というとんでもない人物まで出現します。オフィスにいる時間よりもバールにいる時間のほうが長いのだから参りもの。電話番号を聞いたら、バールの電話番号 だったというのも笑い話のようだが実話です。彼らにとっては、バールのない生活ほど味気ないものはないのです。

 七項目も挙げたバールでの時間割ですが、客の側からすれば、これだけを一つのバールで消化するのではありません。夕食前に待ち合わせをするバール。夕食するバール。食後に場所を変えて最後の一杯を楽しむバール。夕食そのものに数軒のバールをハシゴすることもあり、そうなると、3軒では済みません。スペインを楽しむ鍵にフットワークの軽さがあるのは言うまでもないでしょう。